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【9月号】今そこで何ができるのか

「何度もすみません!」

軽トラの荷台から赤松の林をぼーっと眺めていると運転席から女性の声がした。大量のズッキーニを積んだ軽トラはかなりの重量で、坂道ということも相まってエンストを起こしたのだ。


「畑のつぶやきは何を書こうか」と考えていた私にとっては何度エンストしたとしても無問題。そんな私も3ヶ月前にのらくら農場デビューし、初日に車輪を側溝に落とすという華々しいデビューを飾った。農道は車2台がギリギリにすれ違えるぐらいの狭い道と側溝が多い。対向車とのすれ違いだけを意識しすぎるともう一方のタイヤが側溝に突っ込むことになる。対向車が来たら、落ち着いて左右の状況を確認して進むに限るのだがそれができなかった。私は農道の運転に慣れていないこともさることながら、農作業にいたっては初心者である。つまるところ私が農場に来た時点でできる作業は少なかった。農場では日々様々な業務があるのでやりながら覚えていくことになるのだが、野菜によって違う収穫方法や野菜を出荷できる状態に整える調整方法、運送用の段ボールに詰めるときのルールなど覚えないといけないことはたくさんある。そこには今までどんなことをやってきたとか、どんな肩書きを持っているとかはほとんど関係ない。私で言う、3年前までプリンターの営業をやっていましたとか、この前まで演劇をやっていましたとか。そういったものが今の私を作ったことには間違いないが、畑を前にするとほんのちっぽけなものだと感じざるを得ない。「お前は今そこで何ができるのか?」と畑から常に問われているような気になる。

自然という大きすぎる相手には人間が勝手に決めた"これまでのルール”とか通用するわけもなく、自然の気まぐれな無茶振りにどれだけ応えられるのかという人間の対応力が求められているのかもしれない。出荷の基準だって収穫量や野菜の出来によって都度変わる。例えば今年8月の記録的大雨は野菜にも大きな影響を与えた。私の担当させてもらっているズッキーニだってこれでもかというぐらい収穫量が落ちたので、出荷量を確保するために出荷基準を少し変更した 。それでも出荷しなければならない量を確保できず、泣く泣くお店へ欠品の連絡を入れてもらった。

在庫管理でいうとプリンターの営業をしていた頃の感覚が少しは役立っているような気がする。私は3年前までは家電量販店に営業をしていた。年末商戦期、数限られた自社在庫をいかに売れる店舗に振り分けられるかというのも売上を最大化するためのポイントで、担当営業は昨年の同じ時期の売上台数や当年度の売上台数をもとに年末に何台在庫を入れて欲しいのか本部に申請する。本部担当者を納得させることができれば希望台数が店舗に振り分けられるので、「今15台この店舗に在庫があって、今週末は最低100台売れるはずだからあと100台入れてください!」みたいな会話をしょっちゅうしていた。その甲斐あってか在庫管理の感覚はなんとなくわかってはいたような気がする。ただ、プリンターと野菜は勝手が違う。プリンターはよっぽどなことがない限り言った通りの台数が営業の努力によって入ってくるのだが、野菜は気候などの要因で収穫量が断然変わってくるのでまあ難しい。人間の力だけではどうにもならないことが多々あるのが野菜だ。

そういったイレギュラーが起こった場合、これまでのことは一旦置いておいて、 "じゃあ次どうするか?” という問いの答えを出さなければ前に進まない。農場では次から次へとイレギュラーが発生する。その都度これまでの経験や知恵を踏まえた上で考えながら解決していくのだが、こういったことが私にとって農業が面白いと思うポイントかもしれないと今は感じている。完璧なんて絶対ないし、良い時もあればそうでない時もある。自然に合わせて人間が変化しながら対応する。ああ、まるで人生、、、なんて妄想しているうちにいつの間にか軽トラはアラスカの畑に到着していた。

「ピーマンの追肥でーす!円陣組みましょう」とたくやんさんがいつもの笑顔で迎えてくれた。


さあここで私は何ができるのか。美味しい野菜を届けるために今自分にできることを考えながらやっていこう。


れん

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